Spatial Analyst のライセンスで利用可能。
日射量とは、太陽エネルギーと気象学における基本的な概念です。 これは太陽から放射される電磁波を指し、紫外線、可視光線、赤外線などの幅広い波長スペクトルを含みます。 日射量データを定量化し、分析することで、太陽エネルギー システムの設計とパフォーマンスの最適化、農業用種子選択と灌漑の最適化、融雪と雪解け水の予測、山火事リスクの理解、特定の動植物や開発に最適な場所の特定などが可能になります。
入射する日射量は太陽から発生し、大気を通過し、地表に直達成分、散乱成分、および反射成分として到達します。 直達日射量は、太陽を起点とする直線で、妨げられることなく到達する日射量です。散乱日射は、雲や埃などの大気中の成分により散乱する日射です。 反射日射量は、地表面から別の方向に反射される日射量です。 直達日射量、散乱日射量、および反射日射量の合計を、総日射量または全天日射量と呼びます。 日射量ツールの総日射量の計算には、反射日射量は含まれていません。 このため、総日射量は、直達日射量と散乱日射量の合計として計算されます。
[ラスターの日射量 (Raster Solar Radiation)] ツールと [フィーチャの日射量 (Feature Solar Radiation)] ツールでは、各位置 (セル) の分析のための一般的な論理は以下のとおりです。
- 散乱日射量の天空図を計算する。
- 直達日射量の太陽軌道図を計算する。
- 天空の可視領域を表す半球の可視領域を計算する。
- 可視領域に天空図と太陽軌道図をオーバーレイし、散乱日射量、直達日射量、総日射量を計算する天空の可視領域の部分を決定します。
- 日射量ラスター マップまたはフィーチャ データを生成するすべての位置で繰り返します。
天空図、太陽軌道図、可視領域の計算の詳細については、「日射量のモデリング」をご参照ください。
[フィーチャの日射量 (Feature Solar Radiation)] の仕組みの詳細
[ラスターの日射量 (Raster Solar Radiation)] の仕組みの詳細
太陽軌道図の計算
[ラスターの日射量 (Raster Solar Radiation)] ツールと [フィーチャの日射量 (Feature Solar Radiation)] ツールでは、分析中に数多くの太陽軌道図が作成されます。 太陽の角度は緯度や経度によって変化するため、地形全体の太陽の位置をより正確にモデリングすることで、より広い分析エリアをモデリングできるようになります。
天空の全方向から発生する直達日射量は、可視領域と同じ半球投影で太陽軌道図を使用して計算されます。 太陽軌道図は、1 日、および 1 年間で変化する見かけの太陽の位置を表すラスター表現です。 一定期間に天空を移動する太陽の位置を観察したものに似ています。
太陽軌道図は、地球は 0.5 時間、月は UTC (協定世界時) で 2 時間の時間間隔を使用して、1 日の太陽の位置を定義する不連続な区域で構成されています。 月の方が時間間隔が長いのは、地球の 1 日よりも月の 1 日の方がはるかに長いからです。 太陽軌道図の各区域には一意の識別子が割り当てられるとともに、その重心の天頂角と方位角 (標高) が計算されます。 太陽軌道図は毎日計算され、各区域から発生する日射量は個別に計算されます。 可視領域に太陽軌道図がオーバーレイされ、各区域の直達日射量が計算されます。
太陽軌道図は、経度、緯度、高度によって変化します。 太陽軌道図は入力サーフェスのピクセルごとに計算するのが理想的です。 ただし、効率化を図るために、1 つの太陽軌道図を入力サーフェスの隣接ピクセルのグループに適用します。 太陽軌道図は、H3 地理空間インデックス システムを使用して、六角形のタイルのメッシュとして計算されます。
H3 の不連続のグローバル グリッドの詳細については、https://h3geo.org/ をご参照ください。
太陽軌道図のエリアの相対的なサイズは、[太陽図グリッド レベル] パラメーターで制御されます。 このパラメーターは、計算の速度と精度を制御します。 これにより、内部計算に使用される六角形グリッド セルの解像度が調整されます。 以下の図は、地球上の同じエリアに対し、グリッド レベル 5 から 7 に太陽軌道図を適用した様子を示します。 各六角形グリッド内に含まれる入力サーフェス ラスターのすべてのセルには、同じ太陽軌道図の値が適用されます。
グリッド レベルの値が小さいと、作成される大規模な太陽図エリアが少なくなるため、ツールの実行時間が短縮されます。 グリッド レベルの値が大きいと、作成される小規模な太陽図エリアが多くなるため、結果の正確度が上がります。 大きい太陽軌道図は、太陽図グリッドのエリア全体における太陽の位置の値を一般化します。 つまり、太陽の角度と高度の値が同じであれば、両極でも同じになります。 逆に、地形全体において太陽の位置をより正確に分析するには、最高のグリッド レベルを使用します。
次の表には、太陽図グリッド レベルごとの六角形グリッド セルの平均面積が平方キロメートル単位で示されています。
レベル | 地球 | 月 |
---|---|---|
4 | 該当なし | 131.6 |
5 | 252.9 (デフォルト > 4m) | 18.8 |
6 | 36.1 (デフォルト < 4m) | 2.69 (デフォルト) |
7 | 5.16 | 該当なし |
地球と月の日射量の計算
太陽から到達する直達日射量は、多くの自然現象や生物学的過程の元となる主要なエネルギー源です。 地形規模でその重要性を理解することは、広範な地球の自然の過程と人間の活動を理解する鍵になります。
月と地球の日射量分析は、同じ方法で計算されます。 しかし、物理的および時間的な違いを考慮する必要があります。 たとえば、月の 1 日は、地球ではおよそ 29.5 日に相当します。 月には大気がないため、散乱放射は計算されません。 そのため、総日射量は直達日射量に等しくなります。 月では地球上で使われるタイム ゾーンは意味をなさないため、月の計算では UTC (協定世界時) で時間を定義します。 間隔の計算の場合、地球の最小持続時間は 0.5 時間、月は 2 時間です。
月の分析
月の日射量を分析することは、惑星科学や NASA JPL などの機関において重要です。 その適用例のいくつかを次に示します。
- 月面の地質学研究と熱分析
- 光がほとんど当たらない永久影領域 (PSR) に氷堆積物があるかどうかの研究
- 太陽光発電の自律走行車のナビゲーションとルート計画の入力
- 最終的な太陽光発電の月面施設の最適な立地に関する分析
まず、NASA JPL がサポートしているアプリケーションである Moon Trek から月のデータを入手します。このアプリケーションを使うと、月の多種多様なデータ プロダクトを確認し、ダウンロードできます。
Moon Trek の詳細については、NASA の Web サイト (https://trek.nasa.gov/moon) をご参照ください。
GPU の使用
システムに何らかの GPU ハードウェアがインストールされている場合、[ラスターの日射量 (Raster Solar Radiation)] ツールと [フィーチャの日射量 (Feature Solar Radiation)] ツールによってパフォーマンスを高めることができます。 インストールされていない場合、分析は CPU のみで処理されます。 互換性のある GPU でツールを実行する方が、CPU よりもはるかに早くなります。 CPU で処理する場合、これらのツールは利用可能なすべてのプロセシング コアを活用してパフォーマンス向上を図ります。 このツールの実行に GPU と CPU のどちらを使用するかを制御するには、[解析のターゲット デバイス] パラメーターを使用します。
互換性のある GPU、GPU デバイスの構成と動作に関する詳細や、問題が発生した場合のトラブルシューティングのヒントについては、「Spatial Analyst での GPU 処理」をご参照ください。
SPICE API との連携
日射量ツールは NASA SPICE ソフトウェアを使用し、太陽、地球、月の空間の相対的な位置と時間を決定します。 主な SPICE データ セットはカーネルと呼ばれます。 カーネル データは、天体の精密な観測ジオメトリを提供するナビゲーションおよびその他の補助情報で構成されます。 これらのデータは ArcGIS Pro のインストールの一部として含まれています。Esri では、リリース時に利用可能な最新バージョンでカーネルを更新します。 ユーザーは、カーネル ファイルの更新や追加は行えません。
SPICE は、日射量を直接計算するために使われません。
SPICE の詳細については、NASA JPL Web サイトの Navigation and Ancillary Information Facility (https://naif.jpl.nasa.gov/naif/) をご参照ください。
参考資料
Acton, Charles A. 1996. "Ancillary data services of NASA's Navigation and Ancillary Information Facility." Planetary and Space Science Volume 44, Issue 1, January 1996, pp. 65–70. https://doi.org/10.1016/0032-0633(95)00107-7
Acton, Charles, Nathaniel Bachman, Boris Semenov, and Edward Wright. 2018. "A look towards the future in the handling of space science mission geometry." Planetary and Space Science Volume 150, January 2018, pp. 9–12. https://doi.org/10.1016/j.pss.2017.02.013
Brodsky, Isaac. 2018. "Uber’s Hexagonal Hierarchical Spatial Index H3." Engineering (blog), June 27, 2018. https://www.uber.com/blog/h3/