ガウス地球統計学的シミュレーションの仕組み

Geostatistical Analyst のライセンスで利用可能。

リアライゼーションの生成方法

ガウス地球統計学的シミュレーションでは、最初に、標準正規分布 (平均 = 0、分散 = 1) から抽出された、ランダムに割り当てられた値のグリッドが作成されます。 (単純クリギング レイヤーで指定されているセミバリオグラムからの、シミュレーションの入力として必要な) 共分散モデルがラスターに適用されます。 これにより、ラスター値は入力データセットに存在する空間構造に適合します。 結果ラスターは条件なしの 1 つのリアライゼーションとなり、毎回別の正規分布している値のラスターを使用してさらに多くのリアライゼーションを生成することができます。 この方法の詳細については、Dietrich and Newsam (1993) をご参照ください。

条件付きシミュレーションが選択されている場合、条件なしのラスターにはクリギングによる条件が付きます。 このプロセスでは、各位置におけるクリギング法による推定値 (予測値) が使用されるため、シミュレートされた値では入力データ値がそのまま使用され、平均としては、クリギングによる推定値が再現されます。 クリギングを使用したリアライゼーションへの条件付けの詳細については、Journel (1974) をご参照ください。

ただし、単純クリギング モデルに測定誤差が含まれる場合、(単純クリギング レイヤーやシミュレートされたリアライゼーションで) 入力データ値はそのまま使用されません。 これに加え、ガウス地球統計学的シミュレーション ツールの実装では、連続する (スムージング) 検索近傍が使用され、これによりクリギングで使用されているローカル近傍内での変化によるシミュレーション サーフェスの不連続が回避されます。 詳細については、Aldworth (1998) および Gribov and Krivoruchko (2004) をご参照ください。

地球統計学的シミュレーションの概念および条件付きシミュレーションと条件なしシミュレーションの例については、「地球統計学的シミュレーションの重要な概念」のヘルプ セクションをご参照ください。

ガウス地球統計学的シミュレーションの一般的なワークフローでは、データを準備し、リアライゼーションを作成し、結果を元の単位に逆変換し、結果を後処理するか結果を伝達関数 (モデル) への入力として使用してモデルの出力でのばらつきを評価します。 このプロセスを以下の図に表しています。

ガウス地球統計学的シミュレーションの一般的なワークフロー
ガウス地球統計学的シミュレーションの一般的なワークフロ

シミュレーション出力のチェック

リアライゼーションをチェックして以下を確認する必要があります。

  • 出力値、その空間パターン、位置が妥当である。
  • シミュレートされたデータのヒストグラムが入力データのヒストグラムを平均として再現している。
  • シミュレートされたデータのセミバリオグラムが入力データのセミバリオグラムを平均として再現している。
  • 条件付きシミュレーションでは、データ値がそのまま使用されている (単純クリギング モデルに測定誤差が含まれていない場合)。

後処理

リアライゼーションが生成された後、通常は後処理されて結果のサマリーが取得されます。 ガウス地球統計学的シミュレーション ツールにはいくつかの後処理オプションが用意されており、ラスターの空間範囲全体または特定の対象エリアに対して実行することができます。 これらのエリアは、このツールの入力統計ポリゴン オプションでポリゴン フィーチャクラスを指定することによって定義します。 どちらの場合も出力はほぼ同じであり、ラスター全体を後処理した場合にはサマリー ラスターが生成されるのに対し、ポリゴン エリアを後処理した場合には各ポリゴンのサマリー統計が含まれているポリゴン出力フィーチャクラスが生成されます。

ラスター範囲全体の後処理

  • 出力ラスターには、各位置 (セル) について生成された最小値、最大値、平均値、標準偏差、第 1 四分位数、中央値 (第 2 四分位数)、第 3 四分位数が含まれます。 これに加え、分位を指定すると、各セルでシミュレートされた値の分布に基づいて、その分位の値が返されます。 さらに、閾値を指定した場合、各セルのシミュレートされた値のうち、その閾値を超える値の割合が返されます。
  • 境界ポリゴンまたは一連のポイントを指定することで後処理の範囲を制限することができます (一連のポイントを指定した場合、凸包が生成されて境界ポリゴンとして使用されます)。 境界ポリゴンの内側にある値だけがシミュレートされます。

対象エリアの後処理

  • 対象エリアのポリゴンを指定した場合、各ポリゴンの出力には以下の表で説明するサマリー統計情報が含まれます。 さらに、(ラスター範囲全体を後処理する場合と同様に) 分位の値と閾値も指定することができます。 これらのオプションを選択した場合に生成される出力についても以下の表で説明しています。
  • ポリゴンのサマリー出力は以下の図に示すような演算子を使用して計算されます。 X 演算子は、ポリゴンの内側にあるすべての値を使用して各リアライゼーションの値を計算します。 Y 演算子はすべてのリアライゼーションの値を使用します。 Y 演算子への入力は、X 演算子によって計算される、各リアライゼーションのポリゴン エリアでの値です。
対象エリアの後処理に使用される演算子
対象エリアの後処理に使用される演算子

出力フィーチャクラスの各フィールドの意味について以下の表で説明しています。

フィールド名説明

MIN

すべてのリアライゼーションのポリゴンの内側にあるすべてのセルのうちの最小値。

MAX

すべてのリアライゼーションのポリゴンの内側にあるすべてのセルのうちの最大値。

MEAN

すべてのリアライゼーションのポリゴンの内側にあるすべてのセルの平均値。

STDDEV

すべてのリアライゼーションのポリゴンの内側にあるすべてのセルの標準偏差。

QUARTILE1

すべてのリアライゼーションのポリゴンの内側にあるすべてのセルの第 1 四分位数の値。

MEDIAN

すべてのリアライゼーションのポリゴンの内側にあるすべてのセルの中央値。

QUARTILE3

すべてのリアライゼーションのポリゴンの内側にあるすべてのセルの第 3 四分位数の値。

QUANTILE

すべてのリアライゼーションのポリゴンの内側にあるすべてのセルの、ユーザーが指定した分位数に対応する値。

P_THRSHLD

すべてのリアライゼーションのポリゴンの内側にあるすべてのセルに対する、ユーザーが指定した閾値を超えたセルの割合。

X_Y

一度に 1 つのリアライゼーションについて、ポリゴンの内側にあるセルの値に X 関数が適用されます。 このプロセスは、ポリゴンをゾーンとして使用し、一度に 1 つのリアライゼーションを値のグリッドとして使用して、ゾーン統計ツールを実行することに相当します。 X 関数から返された値に Y 関数が適用されます。

  • X は次の関数のいずれかになります: 平均 (MEAN)、標準偏差 (STD)、第 1 四分位数 (Q1)、中央値 (MED)、第 3 四分位数 (Q3)、ユーザー指定分位数 (Q)、またはユーザー指定超過閾値 (P)。
  • Y は次の関数のいずれかになります: 最小 (MIN)、最大 (MAX)、平均 (MEAN)、標準偏差 (STD)、第 1 四分位数 (Q1)、中央値 (MED)、または第 3 四分位数 (Q3)。

CELL_COUNT

ポリゴンの内側に収まるセルの数。 セルの中心がポリゴンの内側にある場合、そのセルはポリゴンの内側に収まると見なされます。 数値が負の場合、ポリゴンの一部がシミレートしたラスターの範囲の外側にあるか、ポリゴンの一部がクリップ境界の外側にあります。 負の数値自体は、そのポリゴンの内側にあるセルの総数を示しています。

SOURCE_ID

入力ポリゴン フィーチャクラスのオブジェクト ID またはフィーチャ ID。

出力ポリゴン フィーチャクラスのフィールド

境界ポリゴンと対象エリアのポリゴンのどちらのオプションでも、ラスター セルの中心がポリゴンの境界の内側にある場合、そのセルはポリゴンの内側に収まると見なされます。

条件付きシミュレーションと後処理の出力の例

以下の図は、出力のポリゴンを後処理した条件付きシミュレーションの結果を示しています。 このマップには、カリフォルニア州の各郡のオゾン値の 100 個のリアライゼーションの平均値と標準偏差値が示されています。 これらの平均値と標準偏差値は、病気の発生を各郡のオゾンの平均値と比較する必要がある疫学調査などで使用することができます。

ポリゴン出力を使用した条件付きシミュレーション
ポリゴン出力を使用した条件付きシミュレーション

参考文献

Aldworth, J. 1998. Spatial Prediction, Spatial Sampling, and Measurement Error. Ph.D. Thesis, Iowa State University. 186.

Chiles, J. P., and P. Delfiner. 1999. Geostatistics: Modeling Spatial Uncertainty. New York: John Wiley & Sons, 449–471.

Deutsch, C. V., and A. G. Journel. 1998. GSLIB Geostatistical Software Library and User's Guide, 2nd edition. New York: Oxford University Press, 119–141.

Dietrich, C. R., and G. N. Newsam. 1993. "A Fast and Exact Method for Multidimensional Gaussian Stochastic Simulations." Water Resources Research 29 (8): 2861–2869.

Goodchild, M. F., B. O. Parks, and L. T. Steyaert. 1993. Environmental Modeling with GIS. New York: Oxford University Press, 432–437.

Gribov, A., and K. Krivoruchko. 2004 "Geostatistical Mapping with Continuous Moving Neighborhood." Mathematical Geology 36 (2): 267–281.

Journel, A. G. 1974. "Geostatistics for Conditional Simulation of Ore Bodies." Economic Geology 69: 673–687.

Leuangthong, O., J. A. McLennan, and C. V. Deutsch. 2004 "Minimum Acceptance Criteria for Geostatistical Realizations." Natural Resources Research 13 (3): 131–141.