SAR の概要

Image Analyst ライセンスで利用できます。

合成開口レーダー (SAR) では、固有のリモート センシング手法が採用されています。 SAR センサーは航空機や人工衛星に搭載され、真下 (天底) ではなく横方向を向いて機能します。 地表に向かって電磁波を送信し、その反射信号を受信するアクティブ センサーです。 センサーが受信するこの電磁波を、測定された後方散乱と呼びます。 SAR 画像は、測定された後方散乱を 2 次元でレンダリングしたものです。

SAR 画像は一般的に、Ground Range Detected (GRD) と Single Look Complex (SLC) という 2 種類のプロダクトとして提供されます。 GRD プロダクトは、地球楕円体モデルを使用して大圏距離に投影されるマルチルック画像を生成するように平均化されています。 GRD 画像は実数値の配列として格納され、各ピクセルの値は、反射した後方散乱信号の振幅を表しています。 SLC プロダクトは、データ取得の画像平面における画像で、その平面は傾斜範囲平面と呼ばれます。 SLC 画像は複素数値の配列として格納され、各ピクセルの 1 つの複素数値は、反射した後方散乱信号の振幅と位相を表しています。

SAR 画像ピクセルの振幅のデジタル ナンバー (DN) が大きいほど後方散乱が強く、DN が小さいほど後方散乱が弱いということになります。 測定された後方散乱の振幅の強さは、地上のフィーチャを区別するために使用されます。 送信された電磁波と受信された電磁波の時間差によって、フィーチャの位置が決まります。

能動型センシング

センサーは、受動型センサーと能動型センサーに分類されます。 受動型センサーは、光学システムを使用して、太陽から放射され地表で反射される電磁波を記録します。 能動型センサーは SAR システムで使用され、ソースと受信機どちらの役割も果たします。 つまり、電磁波を送信するとともに、反射された電磁波を記録もするということです。 光学センサーと違って、太陽とは無関係に昼夜を問わず動作します。SAR センサーは自ら信号を発信するからです。

能動型センシング

光学センサー (左) は、よく晴れた空でのみ機能します。 SAR センサー (右) は、昼も夜も、雲がある場合でも機能します。

マイクロ波の波長

能動型センシングのはたらきで、SAR センサーは光学センサーより長い波長を使って画像を収集できます。 光学センサーが可視光 (4x10-7m) から熱赤外 (15x10-6m) までの波長を使用するのに対し、SAR センサーは K バンド (7.5x10-3m) から P バンド (1m) までのマイクロ波の波長を使用します。

マイクロ波の波長のおかげで、SAR はほとんどの帯域で全天候型の画像処理システムとして機能できるわけです。 C、S、L、P の各バンドはさらに波長が長くなるため、SAR センサー波が雲、霧、塵、スモッグ、煙などを透過でき、湿度の高い熱帯地方や高緯度地方の監視に適しています。 K バンド信号の強度は降水と雲のどちらでも低下し、X バンド信号の強度は降水でのみ低下します。 また、激しい嵐による雨の核や大気水象は、K バンド、X バンド、C バンドの信号強度を低下させることがあります。 これらのバンドの SAR 画像は、信号がこうした激しい嵐のフィーチャと接触するピクセルの後方散乱を弱めます。 雨の核は大雨 (125mm/h 以上) のときに発生し、大気水象とは液相と融解相の両方の雨粒の雲です。

マイクロ波の波長

SAR システムの特徴であるマイクロ波の波長は、地表の粗さ、密度、含水率といった物理的特性についても明確な情報を示します。 マイクロ波の波長は、反射する地形によって異なる形で散乱するのが普通です。 SAR 画像で取得されるフィーチャは、使用する波長によって大きく影響されます。 波長が目的のフィーチャより長い場合、そのフィーチャはこの電磁波によって検出されません。 たとえば L バンドは、樹冠が光学センサーの地上からの視界を遮るような、熱帯林の洪水マッピングに最適です。 L バンドは波長が 15〜30cm と長くなるため、樹冠の葉は検出されず、電磁波が樹冠を透過して、その下の浸水した地面を撮影できます。 この場合、波長 2.4〜3.75cm の X バンド データは樹冠から直接散乱し、浸水した地面ではなく樹冠を強調した SAR 画像を作成します。

マイクロ波の波長は、土壌や雪、氷などの物質も透過できます。 波長が長ければ長いほど、透過深度は大きくなります。 一方、物質の含水率が高くなるほど透過力は弱くなります。 この性質を利用すると、土壌の凍結非凍結の状態を区別できます。

マイクロ波のほとんどの波長において、道路、空港の滑走路、乾燥した湖底、平坦化された土壌、静水、砂などの滑らかで水平な地形は、センサーからの電磁波を反射し、後方散乱の弱い (低 DN) ピクセルを示します。 同様に、マイクロ波のほとんどの波長で、建物や船舶のような反射材とも鋭い形状を特徴とする人工物は、電磁波をセンサーに反射し、後方散乱の高い (高い DN) ピクセルを示します。

次の表に、各バンドとそれに関連する波長で可能なさまざまな機能と用途をまとめました。

アプリケーションK バンドX バンドC バンドS バンドL バンドP バンド

波長 (cm)

0.75 ~ 2.4

2.4 ~ 3.75

3.75 ~ 7.5

7.5 ~ 15

15 ~ 30

30 ~ 100

浸透

作物の樹冠の低から中程度の透過

YesYes

作物の樹冠の高い透過

YesYes

大気水象または雨の核の透過

YesYesYes

降水の透過

YesYesYesYes

雲、霧、塵、スモッグ、または煙の透過

YesYesYesYesYes

乾燥沖積土の透過

YesYesYesYesYes

乾燥雪または氷の透過

YesYesYesYesYes

高湿潤土の透過

YesYesYesYesYes
マッピング

樹冠のマッピング

YesYes

洪水時の草地のマッピング

YesYesYes

洪水時の葦や潅木のマッピング

Yes

洪水時の樹冠のマッピング

YesYes

海氷の監視

YesYesYesYesYesYes

油流出のマッピング

YesYesYesYesYesYes

地表のマッピング

YesYesYesYesYesYes

洪水のマッピング

YesYesYesYesYesYes

土壌水分の監視

YesYesYesYesYesYes
注意:

この表は、波長を指定できる可能性があるアプリケーションを示しています。ただし、レーダー データセットと位置に適用できることは保証しません。

偏波

能動型センシングでは、長い波長のセンシングだけでなく、送信された電磁波の偏波を制御することもできます。 SAR センサーに送信と受信の両方の偏波を定義させるようにすると、後方散乱に基づく地表のフィーチャを強調した SAR 画像を作成できます。 SAR データの偏波は 2 文字で表され、1 文字目が送信偏波、2 文字目が受信偏波を示します。

二重偏波の SAR 画像として、VV、VH の偏波データ、あるいは HH、HV の偏波データがあります。 VV、VH の場合、センサーは垂直偏波を送信し、垂直偏波 (VV) または水平偏波 (VH) を受信します。 同様に、HH、HV プロダクトの場合、センサーは水平偏波を送信し、水平偏波 (HH) または垂直偏波 (HV) を受信します。 送信波と受信波の偏波が同じ場合、そのデータは共偏波といいます。 送信波と受信波が同じ偏波を共有していない場合、そのデータは交差偏波と見なされます。 波長と同様に、使用する送信偏波と受信偏波は SAR 画像で取得されるフィーチャに大きく影響するため、これを考慮する必要があります。

偏波

空間解像度

能動型センシングによって、SAR センサーの空間解像度を合成的に改善することができます。 SAR センサーは、チャープと呼ばれる周波数の変化する電磁波を放射し、それが受信した電磁波のマーカーになります。 衛星が軌道を周回するとき、または航空機が軌道に沿って飛行するとき、SAR センサーは地表の 1 点を複数回撮影します。 このとき、チャープ マーカーを使用して受信波の位置が特定されます。 このフィーチャと信号処理手法を組み合わせることで、アンテナの短い SAR センサーを合成的に伸ばし、空間解像度の向上を図ることができます。 地上での受信波の位置を特定するには、SAR センサーが横向きになる必要があります。 SAR センサーが天底 (真下) を向いていると、センサーから同じ距離の反対側のフィーチャを識別するための移動時間が使えません。

空間分解能の増加

特定のセンサーのカメラ開口サイズを増やすと、多くの光を取り込むことができるため、写真の解像度が上がります。

SAR センサーの特性によって、地表のフィーチャを一意にレンダリングすることができますが、同時に処理の複雑さも発生します。 最も一般的な処理の複雑さには、熱ノイズの除去、意味のある後方散乱値を取得するためのキャリブレーションの適用、スペックル ノイズのフィルタリング、放射歪みと幾何学的歪みの除去、値の範囲が大きい画像のレンダリングなどがあります。

空間解像度アニメーション

衛星が地球の周りを回っているとき、センサーは何度も地表の画像を作成します。 これと信号処理手法を組み合わせることで、(アンテナの短い) SAR センサーを合成的に伸ばし、開口部を広げることができます。

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