最小二乗調整とパーセル ファブリック

ArcGIS Pro では、最小二乗調整は、パーセル ファブリックの次のシナリオで実行できます。

パーセル ファブリックで最小二乗調整を実行する」ワークフローを確認します。

パーセル ファブリックは冗長な計測ネットワークです。 パーセル ラインはパーセル コーナー ポイントを接続し、計測ネットワークを形成します。 ラインは共通のポイントで接続し、ディメンションを持ちます。これにより、他のポイントとの地理的な距離と角度のリレーションシップが定義されます。

パーセル ファブリックの計測ネットワーク
冗長な計測ネットワークのパーセル ファブリックのライン。

パーセル ファブリックでは、この調整は「冗長なパーセル ライン上」のディメンションを使用して、パーセル ファブリック ポイントに最適な座標 (X、Y、Z) を推定します。 この調整では、ネットワークの冗長性を使用して、ディメンション エラーが存在する可能性のあるラインと、ディメンションがネットワークの他の部分と適合しない (外れ値の) ラインを特定します。

要約すると、最小二乗調整はパーセル ファブリックで次のように機能します。

  • 調整では、現在と履歴の両方のパーセル境界線上の方向と距離のディメンションが使用されます。
  • 境界線または接続線に接続するポイントも計測として調整内で使用されます。
  • ラインのディメンションとポイントの座標を、調整内で重み付けすることができます。 高精度の座標とディメンションには高い加重が与えられます。つまり、変更の許容度が低くなります。 これらは元の位置またはディメンションに近い状態を保つことで、調整全体の結果に大きな影響を与えます。

調整タイプ

目的が空間精度の評価か改善かに応じて、パーセル ファブリックで異なるタイプの調整を行うことができます。

  • フリー ネットワーク調整 - 計測ネットワークはコントロール ポイントによる制約を受けず、計測ミスがチェックされます。
  • 加重/制約付き調整 - 計測ネットワークを制約し、更新後のフリー ポイントの座標を計算するために、複数のコントロール ポイントが含まれます。

フリー ネットワーク調整を使用する一貫性のチェック

一貫性のチェックでは、入力パーセルに対してフリー ネットワーク調整を実行し、パーセル ラインにディメンションの誤りが含まれていないことを確認します。 たとえば、一貫性のチェックは、新しいパーセルが新しいレコードから手動で入力された後に実行できます。

一貫性のチェックでは、入力ラインのディメンションを評価し、解に適合しないディメンションを外れ値または失敗したとみられるものとして識別します。

加重最小二乗調整

加重最小二乗調整は、「制約付き調整」であり、コントロール ポイントとラインのディメンションを使用して、パーセル ファブリック ポイントの更新済みの、空間的精度が高い座標を推定します。 加重最小二乗調整を実行することで、パーセル ファブリックの全体的な空間精度を評価して向上させることができます。 コントロール ポイントは、既知の X、Y、Z 座標を持つポイントです。 コントロール ポイントは調整を制約するもので、フリー (制約のない) ポイントの更新後の座標を計算するために使用できます。

加重最小二乗調整では、ラインのディメンションとコントロール ポイントを、それぞれの精度に基づいて重み付けできます。 コントロール ポイントの精度は認知されており、加重は完全に制約された状態 (最も精度が高く、X、Y、Z が変更されない) から、より多くの移動が許容される低い加重 (低い精度) までの範囲に設定できます。 ディメンションの精度は、一般的には法的なパーセル レコードに基づきます。 一般的に、新しいパーセル レコードのパーセル ディメンションの方が精度が高いので、最小二乗調整における加重が高くなります。 加重の大きいラインおよびコントロール ポイントほど、最小二乗調整の結果に対する影響も大きくなります。

加重最小二乗調整を使用して、加重の低いコントロール ポイントの座標を更新し、もっと制御が必要なパーセル ネットワーク内のエリアを特定することもできます。

最小二乗調整の実行の詳細

DynAdjust 最小二乗調整エンジン

パーセル ファブリックは DynAdjust 最小二乗調整エンジンを使用します。 DynAdjust は、小規模および大規模の測地ネットワークの座標を調整する最小二乗法アプリケーションです。 DynAdjust は段階的な調整アプローチで、大規模なネットワークが順次ブロックで調整されます。 DynAdjust エンジンをスケーリングして、小規模な工事測量から、大規模で全国的な測地ネットワークまで調整することができます。

DynAdjust 最小二乗調整エンジンの機能には、次のようなものが含まれます。

  • 3 次元の座標 (X、Y、Z) の調整
  • 複数の計測のサポート (水平角や測地方位など)
  • 制約付き調整 (既知の加重コントロール ポイントを使用した調整)
  • 最小限の制約付き調整またはフリー ネットワーク調整
  • 調整済みの座標の精度の推定
  • 調整結果の統計解析

DynAdjust 最小二乗調整エンジンの詳細

DynAdjust エンジンでのパーセル ファブリックのディメンション処理

[最小二乗法調整によるパーセルの分析 (Analyze Parcels By Least Squares Adjustment)] ツールを使用して、パーセルで加重最小二乗調整を実行します。 最小二乗調整では、パーセル データを DynAdjust 最小二乗エンジンに入力し、最小二乗調整を使用して調整し、調整解析レイヤーに出力します。 調整解析レイヤーの結果が容認できるものであれば、[パーセルの最小二乗調整の適用 (Apply Parcel Least Squares Adjustment)] ツールを実行して、調整結果をパーセル ファブリックに適用できます。

パーセル ラインと接続線

パーセル ラインおよび接続線のディメンションは、通常、距離および方向セットとして DynAdjust 最小二乗調整エンジンに入力されます。 測地ラインとして構成されているラインが、楕円体の円弧の距離または測地方位角としてエンジンに入力されます。

方向セットは原点 (始点)、後視ライン (基準線)、1 つ以上の前視ラインで構成されます。

方向セット

距離と方向セットは、最小二乗調整で次のように処理されます。

  • 方向セットによって形成される角度は、最小二乗エンジンに入力される計測値です。 この角度は後視ラインと各前視ラインの COGO 方向の値から得られます。
  • 上の画像では、ポイント 3762 が方向セットの原点です。 後視 (基準) 方向は、ポイント 3762 から 3816 に向けたラインです。 前視方向は、ポイント 3762 から 3763 に向けたラインです。
  • 最小二乗調整では、角度が前視方向に調整および適用され、ラインの調整済みの前視方向が取得されます。 最小二乗調整では方向セットの前視ラインの調整済みの方向と距離が返されます。
  • 後視ラインまたは前視ラインの方向が反対向きの場合、方向セットで反転されます。
  • パーセル ファブリックのポイントに複数のラインが接続され、それらのラインが別個の (隣接するか重なり合う) レコードに属している場合、各レコードのラインのセットごとに別々の方向セットが形成されます。 属しているレコード別に方向セットのラインをグループ化することで、異なるレコードに対して異なる方位 (回転) の基礎が使用される場合に対処します。
  • 最小二乗調整の入力と結果は、次のように「AdjustmentLines フィーチャクラスに格納」されます。
    • 方向セットの原点は Point 1 Name フィールドに格納されます。 後視ラインの終点は Point 2 Name フィールドに格納されます。 前視ラインの終点は Point 3 Name フィールドに格納されます。
    • 距離については、始点は Point 1 Name フィールドに、終点は Point 2 Name フィールドに格納されます。 Point 3 Name フィールドには NULL 値が含まれます。
    • 前視ラインの方向セットの角度または距離は Measurement フィールドに格納されます。 Measurement Type フィールドでは、計測値が角度なのか距離なのかを示すサブタイプを使用します。
    • 前視ラインの調整済みの COGO 方向または調整済みの距離は Adjusted Measurement フィールドに格納されます。
    • 調整済みの前視ディメンションと元のディメンションの差は Measurement Correction フィールドに格納されます。

最小二乗調整における測地方位角と楕円体の円弧の距離

パーセル ラインと接続線は、異なるタイプの楕円体ベース ラインとして構成できます。 楕円ベース ラインは、AzimuthType フィールドのコード付きドメイン値に基づいて、最小二乗エンジンで処理されます。 AzimuthType フィールドは [PF_AzimuthType] ドメインを使用します。

方向タイプのコード値ドメイン

ラインは次のように処理されます。

  • コード付きドメイン値が 3 の場合、Direction フィールドの値は順測地で、この値が、計測タイプが測地方位角として DynAdjust 最小二乗エンジンに入力されることを示します。
  • コード付きドメイン値が 2、4、および 5 の場合、Direction フィールドの値は同等の方位角の計算に使用されることを示します。 算出された測地方位角は、計測タイプが測地方位角として、最小二乗エンジンに入力されます。
  • コード付きドメイン値が 1 の場合、Direction フィールドの値は測地ではなく、方向セットの一部として処理されることを示します。
  • コード付きドメイン値が 2、3、4、および 5 の場合、Distance フィールドの値は、計測タイプが楕円体の円弧の距離として最小二乗エンジンに入力されることを示します。

Distance フィールドの楕円体の円弧の距離の値は、最小二乗調整エンジンに入力する前にスケール処理できます。 値が標高にあり、楕円形表面まで減じる必要がある場合は、楕円体の円弧の距離がスケール処理されます。 Is COGO Ground フィールドが [True] の場合、楕円体の円弧の距離の値は、計測タイプが楕円体の円弧の距離として最小二乗エンジンに入力される前に、[縮尺] フィールドの縮尺係数が乗算されます。

Scale フィールドの値は、結合縮尺係数ではなく、標高補正に関連する係数です。 楕円体の円弧の距離の値をスケール処理する公式は、次のとおりです。

ellipsoid arc distance on the ellipsoid = scale factor * ellipsoid arc distance at elevation

楕円体の円弧の距離は、最小二乗調整エンジンへの入力前にこの方法でスケール処理できる唯一の計測タイプです。 標準距離の計測値は、下記の「DynAdjust エンジンでのパーセル ファブリックの Z 属性処理」で説明されているように、斜距離に変換することでスケール処理されます。

パーセル ポイント

パーセル ポイントは、次のようなポイント タイプとして DynAdjust 最小二乗エンジンに入力されます。

  • フリー - 通常のパーセル ポイントです。 ポイント形状のジオメトリは、最小二乗調整の結果がパーセル ファブリックに適用される際に更新されます。
  • 加重 - XY Accuracy フィールドに精度値を割り当てることで、フリー ポイントの座標に重み付けすることができます。
  • 制約付き - 座標は固定され、最小二乗調整の結果がパーセル ファブリックに適用される際には更新されません。

フリー ポイント

Adjustment Constraint フィールドが [XY はフリー、Z は制約] に設定されている場合、パーセル ファブリック ポイントはフリーです。 これがデフォルトです。

フリー ポイントの座標は、最小二乗調整によって再計算され、調整後の最良の位置の推定値が得られます。 ベクターは調整後のフリー ポイントに対して作成され、AdjustmentVectors フィーチャクラスに格納されます。 ベクターは、ポイントの元の座標位置から調整後の座標位置への移動を表します。 最小二乗調整の結果がパーセル ファブリックに適用される際、フリー ポイントにベクターが適用され、座標位置や形状ジオメトリが更新されます。 また、これらのポイントに接続されているパーセル ラインおよびポリゴンの形状ジオメトリも更新されます。

注意:

ポイントの Fixed Shape フィールドが [はい] に設定されている場合、ポイント形状は、最小二乗調整の結果がパーセル ファブリックに適用される際には更新されません。

加重ポイント

ポイントを最小二乗調整で加重ポイントに設定するには、Adjustment Constraint 属性を [XY フリー、Z 制約付き] に設定し、XY Accuracy フィールドに「アプリオリ精度推定」を追加します。 加重ポイントは、最小二乗調整の結果に与える影響も大きくなります。

最小二乗調整による加重ポイントのポイント座標を再計算する際は、アプリオリな精度推定が調整の結果に影響します。 精度の高い加重ポイントは、精度の低い加重ポイントよりも調整量が少ない (調整ベクトルが短い) と予想されます。

最小二乗調整の結果をパーセル ファブリックに適用する際、加重ポイントは指定された標準偏差 (精度) と、そのポイントに接続されたラインのディメンションの影響に応じて調整します。 精度の高い加重ポイントは、精度の低い加重ポイントよりも調整量が少ない (移動量が少ない) と予想されます。

加重ポイントの X および Y フィールドに格納された座標値は、測地緯度と測地経度の計測値に変換され、DynAdjust 最小二乗エンジンに入力されます。 調整後の測地緯度と測地経度の計測値は、AdjustmentLines フィーチャクラスに格納されます。 加重ポイントは、調整後の座標が選択したネットワークの調整後の解に適合しない場合、外れ値としてフラグ付けすることができます。

注意:
加重ポイントの XY Accuracy フィールドの値が高いほど、そのポイントの移動許容範囲が大きくなり、その座標が解の最終的な調整後座標に与える影響は小さくなります。 XY Accuracy フィールドの値が低いほど、解の最終的な調整後座標に与える影響は大きくなります。 これは、XY Accuracy フィールドの値が高いほど調整ネットワークの加重が低くなり、XY Accuracy フィールドの値が低いほど加重が高くなる相関性があることを意味しています。 XY Accuracy フィールドの値の有効な範囲は、0.005 ~ 10 メートル (0.015 ~ 30 フィート) です。

加重ポイントが帰属する座標値は、最小二乗調整で次のように処理されます。

  • 加重ポイントの X および Y フィールドに座標が存在しない場合 (NULL の場合)、最小二乗解析では、そのポイントの形状ジオメトリが使用されます。
  • 最小二乗調整の結果がパーセル ファブリックに適用される際、加重ポイントの XYZ フィールドに格納されている座標値は変化しません。 調整により、(ポイントの加重に基づいて) ポイントの空間位置が更新されます。 調整後の座標は、AdjustmentPoints フィーチャクラスの Adjusted XAdjusted Y、および Adjusted Z フィールドに格納されます。
  • ベクターは移動後の加重ポイントに対して作成され、AdjustmentVectors フィーチャクラスに格納されます。

制約付きポイント

ポイントを最小二乗調整で制約付きに設定するには、Adjustment Constraint 属性を [XYZ が制約] に設定します。 制約付きポイントの座標は、最小二乗調整で固定されます (移動しません)。 制約付きポイント座標の精度は 5 ミリメートルで、XY Accuracy フィールドに入力された精度の値をオーバーライドします。 制約付きポイントの座標は、最小二乗調整の結果に最も大きな影響を与えます。

制約付きポイントは、次のように入力され、最小二乗調整で処理されます。

  • 制約付きポイントの X および Y フィールドに座標が存在しない場合 (NULL の場合)、最小二乗調整では、そのポイントの形状ジオメトリが使用されます。
  • 制約付きポイントは固定され、移動しません。 ただし、制約付きポイントの形状ジオメトリが XYZ フィールドの座標値と異なる場合、最小二乗調整の結果がパーセル ファブリックに適用される際に、帰属する座標に一致するように更新されます。

DynAdjust エンジンでのパーセル ファブリックの Z 属性処理

パーセル レコード ドキュメント内のディメンションは、通常は地表レベルで表され、いずれの地図投影法にも依存しません。 距離はポイント間の平均標高を通る水平線上で表され、各ポイントにおける実際の標高は考慮されません。 パーセル レコード ドキュメントのディメンションは、パーセル ファブリック ライン フィーチャクラスの COGO 属性フィールドに格納されます。

斜距離

DynAdjust エンジンではポイント間の斜距離が使用されます。 各ポイントにおける標高が考慮されるため、水平なラインではなく斜めのラインになります。 パーセル ラインが DynAdjust エンジンに入力されると、パーセル ファブリック ラインの距離ディメンションは同等の斜距離に変換されます。

斜距離はパーセル ファブリック ポイント フィーチャクラスの Z 属性フィールドに格納されている標高値を使用してその場で計算されます。 ポイントの Z 属性値が Null の場合、そのポイントは標高 0 (海面) にあるものと見なされます。 入力ラインの元の COGO ディメンションは変更されません。

[最小二乗法調整によるパーセルの分析 (Analyze Parcels By Least Squares Adjustment)] ツールを使用して加重最小二乗調整を実行すると、計算されたパーセル ラインの斜距離が調整ライン解析レイヤーの Measurement フィールドに取り込まれます。 Measurement フィールドを確認するには、[コンテンツ] ウィンドウの [解析] グループを展開し、[調整ライン] の下の [距離] サブレイヤーの属性テーブルを開きます。

斜距離は常に、パーセル ラインの元の水平距離より長くなります。

Z 属性

最小二乗調整から良好な結果を得るために、ポイントの標高を Z 属性フィールドに必ずしも取り込む必要はありません。 ただし、長いラインの両端にポイントがある場合は特に、ポイントの標高によって調整結果が改善されます。

各ポイントに標高を割り当てる際に、標高の精度はそれほど高くなくてもかまいません。 標高は、地形図ベースマップ上のスポット標高または World Elevation サービスから取得したコンターから内挿できます。

DynAdjust エンジンでは、ポイントの Z 属性フィールドに格納されている標高値のみが使用されます。 ポイント ジオメトリは使用されません。