Spatial Analyst のライセンスで利用可能。
調整された直線距離が計算された後に、水平方向ファクターを使用して、その距離に達する速度を制御することができます。 また、コスト サーフェス、移動者の特性、および垂直方向ファクターを使用しても速度を制御できます。
水平方向ファクターは、地表を移動する際に必要な労力や補助的な力、つまり地表移動時の影響力です。 水平方向の影響力の例としては、地表を移動する際の風、水域を横切る際の水流などがあります。 水平方向ファクターは、その距離にどのように達するかに影響する可能性があります。 向かい風で自転車のペダルをこぐサイクリストは、風に対抗するためにより多くの労力が必要になり、移動の速度が落ちます。 追い風でペダルをこぐ場合は必要な労力が減り、横風の場合の労力は中程度になります。 この影響力を考慮して距離を変更すると、移動者がその距離に達する速度を得るのに役立ちます。
サイクリストへの追い風から 45 度のオフセットで風が吹いている場合、サイクリストにとって有利ですが、完全な追い風 (オフセットが 0 度) の場合ほどではありません。
水平方向ファクター (HF) は、距離計算に対する乗数修飾子です。
各セルの水平方向の影響力の方向は、水平方向ラスターで特定されます。 水平方向ファクターは、移動者が移動する方向に応じて異なります。 [移動方向] ソース特性パラメーターを使用すると、移動者がソースに向かって移動するのかソースから離れる方向に移動するのかを定義できます。 ソースに向かうあるいはソースから遠ざかる移動によって、移動者がセルに入る方向が変わります。 移動者は、異なる角度で水平方向の影響力を受けるので、水平方向ファクターの乗数により変化します。 移動方向と水平方向ファクターがどのような相互作用でコスト距離に影響するかについての詳細は、ソース特性に関するトピックの「解析への風の組み込み」をご参照ください。
水平方向ファクターの使用例
水平方向ファクターは、次のようなさまざまなシナリオで使用できます。
- 船の航路を変える可能性がある海流の影響 (分析範囲の海流速度は一定とする) を考慮して、船が取るべきルートを特定します。
- ニューヨーク シティからロサンゼルスに向かう飛行機と、ロサンゼルスからニューヨーク シティに向かう飛行機の、飛行時間の差を特定します。 風速を一定と仮定すると、東から西への飛行は、西から東への飛行とは対照的に向かい風の中の飛行となるため、時間がかかります。
- できる限り等高線に沿ったハイキング トレイルを提案します。 勾配が急なエリアは、バリアとして処理されるかコスト摩擦ラスターへの入力として使用され、トレイルが等高線に沿って進んでいるが危険な急斜面に遭遇したときに建設コストが増加します。
- 重力によって流れる排水管を、勾配が最も急な方向に沿った場所に設置します。
水平方向ファクターの組み込み
距離の解析は、概念的に、次の関連機能領域に分けることができます。
- 直線距離を計算し、必要に応じて、バリアまたはサーフェス ラスターを使用して計算を調整します。
- 直線距離が計算されたら、必要に応じて、コスト サーフェス、ソース特性、垂直方向ファクター、および水平方向ファクターにより、その距離に達する速度を決定します。 累積距離ラスターを作成します。
- 最適ネットワーク、特定のパス、またはコリドーを使用し、生成される累積距離サーフェス上に領域を接続します。
2 つ目の機能エリアから、下図のように、水平方向ファクターによってその距離に達する速度を決定します。
ボートが、あるマリーナ (黄色い点) を出発して次のマリーナ (オレンジ色の点) に移動するとします。 紫色のラインは、島々をめぐりながら 2 つのマリーナ間を移動する最短の直線ルートを示します。
ただし、海流が北西から南東に流れています (灰色のポリゴン)。 海流を利用すると、赤紫色のラインが、最初のマリーナ (黄色い点) から 2 番目のマリーナ (オレンジ色の点) に移動するための最短ルートになります。
水平方向ラスターが組み込まれる場合、移動方向が重要です。 この例では、最初のマリーナから 2 番目のマリーナに移動するためのコストとルートは、2 番目のマリーナから最初のマリーナに戻る場合と異なります。
水平方向ファクターを使用した距離マップの作成
水平方向ファクターを組み込んだ距離マップを作成するには、次の手順を実行します。
- [距離累積 (Distance Accumulation)] ツールを開きます。
- [入力ラスター、またはフィーチャ ソース データ] パラメーターにソースを入力します。
- 出力距離ラスターに名前を付けます。
- [水平方向の移動を基準としたコスト] カテゴリを展開します。
- [入力水平方向ラスター] パラメーターに水平方向ラスターを入力します。
このラスターは、各セルの水平方向の影響力の向きを指定します。
- [水平方向ファクター] の値を指定します。
このパラメーターは、その距離にどのように達するかに影響する水平方向ファクターの影響を取り込むために適用される乗数を示します。
- [実行] をクリックします。
水平方向ファクターは、距離に達する速度に影響します
距離に達する速度を変更し、水平方向ファクターの影響力を考慮するため、ツールは内部で次の 2 つの操作を実行します。
- 1 つのセルから次のセルに移動する際に水平方向ファクターがどのように影響するかを、水平方向ファクター ラスターから計算します。 これは、水平方向の相対移動角度 (HRMA) と呼ばれます。
- HRMA がその距離に達する速度をどのように変えるかを特定します。
HRMA の計算
セル間の移動について総 HF を計算するには、処理セル (始点セル) から、距離を計算するセル (終点セル) の端までの HF と、終点セルの端からその中心までの HF を特定する必要があります。
はじめに、水平方向を設定する必要があります。 水平方向は 0 ~ 360 度で計測されます。 始点は処理セルの北を指し、時計回りで値が増加します。
水平方向は、入力水平方向ファクター ラスターの各セル位置に割り当てられた値で指定されます。 これは通常、処理セルに対して水平方向の移動コストが最小の方向を示します。
水平方向の定義後、水平方向に対する移動先セル (終点セル) の位置を決定する必要があります。 処理セルにおいて優勢な水平方向に対する終点セルの方向は、水平の移動方向です。 水平方向ファクター ラスターにより指定される水平方向から終点セルへの角度は、HRMA です。
設定した方向のいずれかの側ではなく、設定した水平方向からの角度が関連します。
HF 乗数の特定
HRMA を決定したら、グラフを使用して水平方向ファクターの乗数を特定します。 HF が Y 軸、HRMA が X 軸です。
上の例では、水平方向ファクターを計算するセルの HRMA は、入力水平方向ファクター ラスターの処理セルに指定されたように、水平方向から 90 度です。 [LINEAR] 水平方向ファクター グラフが使用された場合、水平方向ファクター コストは 1.61 になります。 以下のグラフでは、X 軸の 90 のところで緑色の関数ラインに上昇し、Y 軸の水平方向ファクター関数の乗数まで、その関数ラインをたどります。
HRMA の値の範囲は -180 〜 180 度です。 ただし、水平方向ファクター グラフでは、X 軸には 0 〜 180 の値のみが表示されており、この理由はグラフが水平方向ファクターの軸に線対称 (反転) であると仮定されているからです。 つまり、HRMA が 90 の水平方向ファクターは HRMA が -90 のものと同じです。 INF は、値が無限大になることを意味します。
同じプロセスが、終点セルのエッジとそのセルの中心を結ぶ線分長について実行されます。 移動方向は同じままですが、計算に使用される水平方向は、終点セルにおける優勢な水平方向です。 2 つのセルを結ぶ移動リンクを 2 つの線分長 (処理セル内にある半分の線分長と終点セルにある残り半分の線分長) に分割することにより、より正確な水平方向ファクターが得られます。 処理セルを始点として移動する場合、移動者は、処理セルに関連する水平方向ファクターの影響を受けます。 終点セルに向かって移動する場合、移動者は、終点セルに関連する水平方向ファクターの影響を受けます。 距離の式では、各線分長の水平方向ファクターに、コスト ラスターから得られた対応するコスト (コスト ラスターに入力されている場合) が乗算されます。
移動者が受ける水平方向ファクターの影響に対する移動者の相互関係を得ることができる水平方向ファクター関数には、Binary、Forward、Linear、Inverse linear、および Table があります。
注意:
水平方向ファクターは乗数です。 水平方向ファクターと、コスト サーフェス、ソース特性、または垂直方向ファクターを組み合わせた場合の単位を指定する際は、注意が必要です。 一般に、コスト サーフェスが入力された場合、水平方向ファクターは、コスト サーフェスの単位の速度の乗数調整である必要があります。 コスト サーフェスの速度の単位が時間の場合、水平方向ファクターは時間の修飾子である必要があります。 これらのファクターのいずれか 1 つのみが速度の単位を定義できます。 残りのファクターは単位を持たず、それらの値は指定された単位の乗数修飾子となります。
水平方向ファクターを使用した適用例
以下に、水平方向ファクターを使用した適用例を挙げながら説明していきます。
水平方向ファクターを使用したトレイルの造成
既存の 2 つのトレイルの端を延長してトレイルを造成することを検討しています。 トレイルは、できる限り等高線近くに沿うよう造成し、利用者が必要以上に上ったり下ったりしなくて済むようにします。 次の画像では、その点を考慮した最初のプランが赤いルートで示されています。 このルートにはいくつか問題点があります。 このルートは、岩肌が露出している場所を横切っており、造成と保守に費用がかかります。 また、トレイルが非常に目立つ可能性があり、トレイルの造成が環境に大きく影響します。 黄色いルートで示された 2 つ目のプランはより合理的です。 コスト サーフェスが解析への入力として使用されたので、勾配が急な区域でのトレイル造成のコストが増加します。
両ルートの水平方向ファクター ラスターは、[サーフェス パラメーター (Surface Parameters)] ツールを使用して、1 メートルの解像度の標高サーフェスから作成されています。 ヒューマンスケールの最大傾斜角 (およそ 5 メートル) の方向を示す、一時的な傾斜方向ラスターが作成されました。 続いてマップ代数演算が適用され、傾斜方向が 90 度回転しました。 結果として、各セルで等高線の方向を識別する水平方向ファクター ラスターが得られました。 最終的に、対称的な水平方向ファクター関数が使用され、等高線の方向に沿わない移動が制限されます。
黄色いルートでは、勾配が急な区域でのトレイル造成を回避するコスト サーフェスが入力されました。
参考情報
以下のセクションでは、水平方向ファクターに関するその他の情報を提供します。
水平方向ファクター
水平方向ファクターの乗数の決定に使用する水平方向ファクター関数を定義するには、ソフトウェアが提供するグラフから既存の関数を選択するか、ASCII ファイルを使用してカスタム関数を作成することができます。 以下の水平方向ファクター関数は、[距離累積 (Distance Accumulation)] および [距離アロケーション (Distance Allocation)] ツールで選択できます。
水平方向ファクターオプション、修飾子、およびデフォルト値
関数 | ゼロ ファクター | カット アングル | 傾斜角 (Slope) | サイド値 |
---|---|---|---|---|
バイナリ | 1 キー | 45 | なし | なし |
前方 | 0.5 | 45 (固定) | なし | 1 キー |
リニア | 0.5 | 181 | 1.111E-02 | なし |
逆リニア | 2 | 180 | -1.111E-02 | なし |
各水平方向ファクター関数の説明は、以下のとおりです。 各関数は、一連の修飾子を介してさらに調整することができます。 修飾子については下記のセクションで説明します。
バイナリ
HRMA がカット アングルよりも小さい場合、セルのセクションの移動に対する HF は [ゼロ ファクター] の値に設定されます。 HRMA がカット アングルよりも大きい場合、そのセクションに対する HF は無限大に設定されます。 デフォルトのカット アングルは 45 度です。 デフォルトのゼロ ファクターは 1.0 です。
前方
移動するセクションの HRMA が 45 度未満である場合、HF は [ゼロ ファクター] の値に設定されます。 HRMA が 45 度以上、90 度未満である場合、HF は [Side value] の値に設定されます。 サイド値が指定されていない場合は、デフォルトのサイド値 1 が使用されます。 HRMA が 90 度以上である場合、HF は無限大に設定されます。 デフォルトのゼロ ファクターは 0.5 です。
リニア
HF は、HRMA-HF 座標系の直線によって特定されます。 HF と衡平なラインの Y 軸切片は、[ゼロ ファクター] の値で指定されます。 ラインの傾斜角は [Slope] 修飾子を使用して指定できます。 傾斜角が指定されていない場合は、デフォルトの 0.5/45 または 1/90 (0.01111 として指定) が使用されます。 デフォルトのカット アングルは 181 度であり、これはカットがないことと同じです。 デフォルトのゼロ ファクターは 0.5 です。
逆リニア
HF は、HRMA-HF 座標系の直線の反転値によって特定されます。 HF と衡平なラインの Y 軸切片は、[ゼロ ファクター] の値で指定されます。 ラインの傾斜角は [Slope] 修飾子を使用して指定できます。 傾斜角が指定されていない場合は、デフォルトの -2/180 または -1/90 (0.01111 として指定) が使用されます。 デフォルトのカット アングルは 181 度であり、これはカットがないことと同じです。 デフォルトのゼロ ファクターは 2.0 です。
テーブル
グラフは、テキスト エディターで作成された ASCII ファイルで定義できます。 このファイルでは、各行で 2 列の値を指定します。 1 番目の値は度単位の HRMA、2 番目の列は HF を指定します。 各行は、グラフ上のポイントを指定します。 2 つの連続するポイントが、HRMA-HF 座標系の線分長を定義します。 HRMA の角度は、昇順で入力する必要があります。 最初の (最小) 入力値よりも小さい、または最後の (最大) 入力値よりも大きい HRMA の HF は無限大に設定されます。 無限大の HF は、ASCII ファイルでは -1 で表されます。
水平方向ファクターの ASCII テーブルのサンプルを次に示します。
0 1.40 10 2.43 20 2.30 30 3.44 40 1.25 50 1.02 60 0.90 70 0.86 80 0.25 90 0.78 100 1.49 110 2.35 120 3.32 130 2.39 140 3.18 150 2.13 160 1.89 170 1.20 180 2.034
水平方向ファクターの修飾子
HRMA のいくつかのキーワード パラメーターには、さまざまな結果を得るためのオプションを指定できます。 [Linear] 関数と [Inverse linear] 関数の勾配、[Forward] 関数のサイド値、およびゼロ ファクターにより入力関数の Y 軸切片を変更でき、任意の HRMA 関数のカット アングルはすべて制御できます。
ゼロ ファクター
この修飾子は、指定された関数の Y 軸切片の位置を決めます。 これは、すべての水平方向ファクター関数と組み合わせて使用できます。
カット アングル
この修飾子は、HF を無限大に設定する基準となる HRMA の閾値を設定します。 [Cut angle] は、[Forward] 以外のすべての水平方向ファクター キーワードで使用できます。 この関数は、当然のことながら、独自のカット アングルを設定します。
傾斜角 (Slope)
この修飾子は、[Linear] および [Inverse linear] キーワードを使用する場合に HRMA–HF 座標系の直線の傾斜角を指定します。 傾斜角は、水平方向の長さを分母、垂直方向の長さを分子として指定されます (たとえば、30 度の傾斜角は 1/30 であり、0.03333 として指定されます)。 [Linear] HRMA グラフで傾斜角が 1/90 のラインの例を確認できます。
サイド値
この修飾子は、[Forward] 水平方向ファクター キーワードが使用される場合に、45 度以上、90 度未満の HRMA に割り当てられる HF 値を指定します。 サイド値が 1 の [Forward] HRMA グラフを確認します。
テーブル名
この修飾子は、[Table] オプションで使用される ASCII ファイルの名前を指定します。