ペアワイズ比較による加重の割り当ての仕組み

[ペアワイズ比較による加重の割り当て (Assign Weights by Pairwise Comparison)] ツールでは、ペアでの変数の評価により一連の入力変数の加重が計算されます。 ツール ダイアログ ボックスで、入力変数からペアが自動的に作成されます。 各ペアのスライダーを調整することで、より重要な変数と、どの程度重要であるかを指定することができます。 ペアワイズ評価から比較マトリックスが作成され、それに基づいて加重が計算されます。

[加重合計 (Weighted Sum)] ツールを使用する Spatial Analyst の適合性モデル、「適合性モデラー」、Business Analyst で構築された適合性モデルでこの加重を使用することができます。 この加重は空間統計の [コンポジット インデックスの計算 (Calculate Composite Index)] ツールで変数の加重として使用することもできます。

ペアワイズ比較

適合性モデルにおいて、多数の変数 (基準) について加重を計算してその相対的重要度を明らかにすることは困難であり、主観的になりますが、 変数のペアについては、より正確に比較することができます。 たとえば、適合性モデルで 5 つの基準 (傾斜角、傾斜方向、水源までの距離、道路までの距離、標高) について相対的な加重を調べるのは困難な場合がありますが、 傾斜角と傾斜方向のどちらの基準がより重要で、どの程度重要であるかは、それよりも簡単に調べることができます。

ペアワイズ比較法 (Saaty 2008) は、生態学的生息適地モデリング、企業立地選定、健康リスク インデックスの特定など、多基準意思決定アプローチが用いられているさまざまな分野で広く使用されています。 ペアワイズ加重の利点は、アイテムを一度に 2 つずつ比較することで、複雑な意思決定が単純化され、体系的な方法で入力変数を優先順位付け (ランク付け) できることにあります。 変数のペアはより正確に相対比較できるため、最終的に計算される加重はより客観的なものとなります。 ペアワイズ比較の整合性を確保するため (たとえば、A > B かつ B > C の場合、C が A より大きくてはならない)、このツールには診断機能が備わっています。

応用例

ペアワイズ比較の応用例を次に示します。

  • 適合性モデルで複数の基準について加重を計算する。
  • 複合適合性モデルのサブモデルのセットについて加重を計算する。
  • レイヤー内のいくつかの土地利用タイプの相対的重要度を評価する。
  • いくつかの汚染物質の相対的加重を計算して、公共政策を左右する大気質指標を作成する。
  • 優先度に基づいてラスター レイヤーを再分類する際に新しいクラス値を特定する。
  • 会社の意思決定で複数のプロジェクトの相対的優先度を推定する。

ペアワイズ手法

Thomas L. Saaty (Saaty 2008) によって開発されたペアワイズ比較は、複数の変数について重要度の相対的加重を算出するためのフレームワークを提供します。 ペアワイズ比較では、すべての変数が同時にランク付けされるのではなく、体系化された手法を用いて、一度に 2 つの変数を比較して各変数の重要度を評価します。 このアプローチは、直接測定することはできないが意思決定に不可欠な無形要素を扱う場合に特に役立ちます。 この手法では、専門的判断を用いて、各要素の重要度を相対的に表す優先度を導出します。

ペアワイズ比較ワークフロー

ペアワイズ比較ワークフローの主なステップを次に示します。

  1. 比較する変数を特定します。
  2. 変数ペアの比較を指定し、比較マトリックスを作成します。
  3. 比較マトリックスから加重を計算し、出力テーブルを生成します。

[ペアワイズ比較による加重の割り当て (Assign Weights by Pairwise Comparison)] ツールでは、入力変数からペアが動的に作成されます。 スライダーを使用して、各ペアでどちらの変数がより重要でどの程度重要なのかを指定します。 比較が作成されるたびに、比較マトリックスが更新されます。 比較マトリックスから最終加重が計算されます。

このツールでは、入力変数について算出された加重のセットが比較マトリックス付きまたは比較マトリックスなしで出力されます。

ペアワイズ比較ワークフローの例

ペアワイズ比較による加重の割り当てツールの使用

このツールを使用する際の一般的なワークフローを次に示します。 以下のステップ番号は、上の図の番号に対応しています。

  1. [比較する入力変数] パラメーターに、比較する変数の名前を入力します。
  2. 必要に応じて、自動的に生成された [出力テーブル] パラメーターの値を変更します。
  3. [ペアワイズ比較マトリックス] パラメーターで、[変数の比較と重みの計算] ボタンをクリックします。

    [ペアワイズ比較の定義] ウィンドウが開いて比較マトリックス テーブルが表示されます。

  4. 各ペアのスライダーを動かしてペアワイズ比較を指定します。
  5. ペアワイズ比較の整合性を確保するため、[一貫性] をクリックします。
  6. [実行] をクリックします。

このツールでは、Saaty (2008) によって開発された 1 ~ 9 のスケールが使用されます。 スケール、その定義、スケールの各値の説明を以下の表に示します。

重要度定義説明

1

同等に重要

2 つのアクティビティが等しく目的に寄与します。

2

少し重要

3

やや重要

経験や判断に基づき、一方のアクティビティがもう一方のアクティビティよりやや好まれる。

4

やや重要+

5

かなり重要

経験や判断に基づき、一方のアクティビティがもう一方のアクティビティよりかなり好まれる。

6

かなり重要+

7

非常に重要

一方のアクティビティがもう一方のアクティビティより非常に好まれ、その重要度の高さが実証済みである。

8

非常に重要+

9

極めて重要

一方のアクティビティをもう一方のアクティビティより好む根拠が最高次元の肯定力である。

比較マトリックス

ペアワイズ手法の中核が比較マトリックスです。 このマトリックスにはペアごとの優先度が取り込まれ、そこから加重が計算されます。

このマトリックスでは、各行と各列が交差する部分が、比較する変数のペアを表します。 ダイアログ ボックスで、ペアごとに、スライダーを調整して比較の優先度を指定します。 一方の側にスライダーを動かすと、そちら側の変数の優先度が高くなります。 スライダーが中央の位置にある場合、両方の変数の重要度が等しいことを意味します。 このプロセスには、自分の知識、経験、好みに基づいた主観的な判断が含まれます。

各スライダーを動かすと、比較マトリックスが更新されます。 このツールでは、スライダーで選択した値が、対応する行 (より重要な変数) と列 (あまり重要でない変数) にあるセルに割り当てられます。 その逆数 (1/値) がマトリックスの反対位置に割り当てられます。

たとえば、太陽光発電所適合性モデルで変数 Solar_Gain と Elevation を評価している場合に、Solar_Gain の重要度が Elevation の 2 倍であると考えたとします。 この評価を反映するには、この 2 つの変数のスライダーを調整して、Solar_Gain 側のスケール 1 ~ 3 の間に移動します。 比較マトリックスで、Solar_Gain 行 Elevation 列のセルの値が 2 に更新され、その逆数 (1/2 つまり 0.5) が Elevation 行 Solar_Gain 列のセルに自動的に割り当てられます。

ペアワイズ比較の計算

比較マトリックスから加重を計算するプロセスは、以下の図に示すように複数のステップから成ります。

ペアワイズ比較の計算プロセスの例
この図は比較マトリックスから加重を計算するステップを示しています。

4 つのステップについて以下で説明します。

比較マトリックス

入力変数についてのペアワイズ評価を示す比較マトリックスを作成します。

列の合計

各列のセルの値が合計されます。

計算された列の合計値を使用して、その列内の値が正規化されます。 上の図のペアワイズ比較の例では、1 つ目の列 Solar_Gain に値 1、0.333、0.5、0.5、3 が含まれており、その合計は 5.333 になります。

合計値 5.333 を使用して 1 つ目の列の各値が正規化され、正規化された値は次のステップで使用されます。

正規化

対応する比較値をその列の合計で割ることによって、各比較ペアの正規化された値がそれぞれ計算されます。

たとえば、Solar_Gain 行 Solar_Gain 列のセルの正規化された値は 1 / 5.333 ≈ 0.188 です。

加重の計算

各変数の最終加重を計算するため、各行の正規化されたすべてのセルの平均が求められます。

上の図の正規化テーブル マトリックス内の 1 つ目の行では、次のように計算されます。

Solar_Gain の加重の計算例

加重を求める各変数についてこの計算が実行されます。

整合比の調整

すべてのペアの比較間の整合性を調べるには、[一貫性] をクリックします。 整合比が一番下に表示されます。 整合比が 0.1 より大きい場合、それらの比較に整合性はありません。 最も整合性がない 3 つのペアは整合比が赤色で表示されます (以下の例を参照)。 整合性がない比較をスライダーを使用して調整することで、整合性を確保することができます。

ペアワイズ比較マトリックスと整合比の例

整合比の算出方法の詳細については、「ペアワイズ比較の整合比の計算」をご参照ください。

入力比較マトリックスの形式

加重なしと加重ありでの comparison_matrix パラメーター値として使用可能な有効な形式の例を次に示します。

加重なし

加重なしの表形式入力比較マトリックスの例を次に示します。

変数Dist_RoadsElevationLanduseAspect

Dist_Roads

1

0.333

3

1

Elevation

3

1

0.2

3

Landuse

0.333

5

1

7

Aspect

1

0.333

0.143

1

加重なしの入力比較マトリックスには 2 つのテキスト形式があります。

1 つ目の形式では、変数とその評価をテキスト表形式でリストします。 例を以下に示します。

Variables, Dist_Roads, Elevation, Landuse, Aspect Dist_Roads,1,0.333,3,1 Elevation,3,1,0.2,3 Landuse,0.333,5,1,7 Aspect,1,0.333,0.143,1

2 つ目の形式では、変数ペアとその評価を個別にリストします。 例を以下に示します。

Variables Dist_Roads Elevation 0.333; Dist_Roads Landuse 3; Dist_Roads Aspect 1; Elevation Landuse 0.2; Elevation Aspect 3; Landuse Aspect 7;

加重あり

加重ありの表形式入力比較マトリックスの例を次に示します。

変数Dist_RoadsElevationLanduseAspect加重

Dist_Roads

1

0.333

3

1

0.253

Elevation

3

1

0.2

3

0.252

Landuse

0.333

5

1

7

0.407

Aspect

1

0.333

0.143

1

0.088

注意:

加重がすでに計算されている場合、このツールを使用して再計算する必要はありません。 comparison_matrix パラメーター値に加重が含まれている場合、それらの加重は無視され、このツールによって再計算されます。 比較マトリックスが別のツールまたはアプリケーションで作成されたものである場合には、加重を含むマトリックスが使用されます。

加重ありのテキスト入力比較マトリックスには 2 つの形式を使用できます。

1 つ目の形式では、変数とその評価および加重をテキスト表形式でリストします。 例を以下に示します。

Variables, Dist_Roads, Elevation, Landuse, Aspect, Weights Dist_Roads,1,0.333,3,1,0.253 Elevation,3,1,0.2,3,0.252 Landuse,0.333,5,1,7,0.407 Aspect,1,0.333,0.143,1,0.088

2 つ目の形式は 2 つのセクションに分かれています。 1 つ目のセクションでは、各変数ペアとその評価をリストします。 2 つ目のセクションでは、変数とその最終加重を指定します。 例を以下に示します。

Variables Dist_Roads Elevation 0.333; Dist_Roads Landuse 3; Dist_Roads Aspect 1; Elevation Landuse 0.2; Elevation Aspect 3; Landuse Aspect 7; Weights Dist_Roads 0.252906; Elevation 0.252138; Landuse 0.406524; Aspect 0.088432;

Python 比較マトリックス

Python では、comparison_matrix パラメーターの値として、次のようにペアとその評価を直接入力します。

Variables Dist_Roads Elevation 0.333; Dist_Roads Landuse 3; Dist_Roads Aspect 1; Elevation Landuse 0.2; Elevation Aspect 3; Landuse Aspect 7;
注意:

表形式またはテキスト ファイル形式、あるいは Pythoncomparison_matrix パラメーターの値として指定するペアワイズ比較の順序は、input_variables パラメーターの値と同じ順序でなければなりません。 変数ペア テキスト ファイル形式で指定する際、あるいはパラメーターに直接入力する際には、ペアとその評価として、1 つ目の変数を他の各変数と順番にペアにしてリストする必要があります。 次に、2 つ目の変数を残りの変数と順番にペアにしていきます。

出力テーブルの形式

このツールからの、比較マトリックス付きまたは比較マトリックスなしの出力テーブルの例を次に示します。

比較マトリックス付き

次の表に、[出力への比較マトリックスの追加] パラメーターがオンになっている場合の比較マトリックスを示します。

比較マトリックスと付随する加重

変数Dist_RoadsElevationLanduseAspect加重

Dist_Roads

1

0.333

3

1

0.253

Elevation

3

1

0.2

3

0.252

Landuse

0.333

5

1

7

0.407

Aspect

1

0.333

0.143

1

0.088

[出力への比較マトリックスの追加] パラメーターがオンで出力タイプがテキストの場合の出力テーブルの例を次に示します。

Variables, Dist_Roads, Elevation, Landuse, Aspect, Weights Dist_Roads,1,0.333,3,1,0.253 Elevation,3,1,0.2,3,0.252 Landuse,0.333,5,1,7,0.407 Aspect,1,0.333,0.143,1,0.088

加重のみあり

[出力への比較マトリックスの追加] パラメーターがオフになっている場合、次の形式が使用されます。

出力タイプとしてテーブルが指定されている場合、出力テーブルには VariablesWeights の 2 つの列が含まれます。

変数加重

Dist_Roads

0.253

Elevation

0.252

Landuse

0.407

Aspect

0.088

出力タイプがテキストの場合、このテーブルは構造化テキスト ファイルであり、ペアワイズ比較に基づいて算出された各変数の加重が含まれます。 例を以下に示します。

Variables, Weights Dist_Roads,0.253 Elevation,0.252 Landuse,0.407 Aspect,0.088

参考文献

Saaty, T. L. 2008. "Decision making with the analytic hierarchy process". International Journal of Services Sciences, 1(1), 83-98.

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