マルチスケール サーフェス パーセンタイル (Multiscale Surface Percentile) の仕組み

Spatial Analyst のライセンスで利用可能。

地形などのサーフェスを解析することは、水文解析から生態学まで、さまざまな学問分野の重要な要素です。 このような解析の結果は、特定の地形的特徴に関するデータや計算の空間解像度に依存することがよくあります。 この依存により、複数の空間解像度で計算が実行されるマルチスケール解析アプローチが増加しました。 これらのマルチスケール アプローチを用いることで、地形を特徴付けるのに最適な縮尺を見つけ、各パラメーターが縮尺の変化にどのように反応するかを測定できます。

[マルチスケール サーフェス パーセンタイル (Multiscale Surface Percentile)] ツールは、(近傍のサイズが異なる) 空間縮尺の範囲における最も極端なパーセンタイルを計算します。 50 から最も離れたパーセンタイル (0 または 100 に近い値など) が、そのセルで最も極端な値と見なされます。 このツールの出力として、セルのこのパーセンタイルおよびパーセンタイルが見つかった縮尺が返されます。

これらの出力に基づいて、入力サーフェス ラスター上のフィーチャとそれらのフィーチャに関連付けられている縮尺を解釈することができます。 以下の例は、同じサーフェスでの 2 つの異なる縮尺の結果を示しています。 1 つ目の図 (左側) では 29 x 29 セルの縮尺が使用されているのに対し、2 つ目の図 (右側) では 49 x 49 セルの縮尺が使用されています。 ここでは、小さな縮尺は地形の局地的な変化に対する感度が大きく、比較的小さなサーフェス フィーチャが取り込まれています。 これに対し、大きな縮尺では細部はあまり表示されず、比較的大きなサーフェス フィーチャだけが表示されています。

2 つの異なる縮尺でのパーセンタイル出力の例
同じ範囲におけるパーセンタイル出力を小縮尺 (2 つ目の図) と大縮尺 (3 つ目の図) の 2 つの異なる縮尺で示しています。

最も極端なパーセンタイル値の計算方法

次の手順では、ツールで使用される内部プロセスの概要を示します。

  1. [最小近傍距離][最大近傍距離][基本距離の増分][非線形ファクター] の各パラメーターを使用して解析の縮尺を定義します。 これらのパラメーターの単位は [距離単位] パラメーターによって制御されます。
  2. セルごとに、計算された縮尺でのパーセンタイルが計算されます。
  3. 計算されたパーセンタイルが縮尺間で比較されます。 50 から最も離れたパーセンタイルが、そのセルで最も極端なパーセンタイルと見なされます。

各手順の詳細については、以下のセクションで説明します。

解析される縮尺の特定方法

解析の縮尺は、[マルチスケール サーフェス パーセンタイル (Multiscale Surface Percentile)] ツールのオプションのパラメーターを使用して指定します。 [最小近傍距離] パラメーターで解析の最小縮尺を設定し、[最大近傍距離] パラメーターで解析の最大縮尺を設定します。 [基本距離の増分] および [非線形ファクター] パラメーターは、最小縮尺と最大縮尺の間の近傍距離の増分を制御します。

各縮尺は、近傍距離値として表されます。 解析は、入力パラメーターの設定に応じて、複数の近傍距離に対して実行されます。

ターゲット セルについて、ターゲット セルの中心から外側に近傍距離が測定され、ターゲット セルの周囲にセルの正方形が作成されます。 たとえば、以下の図に示すように、入力サーフェス ラスターのセル サイズが 10 メートルで近傍距離が 30 メートルの場合、7 x 7 セルの近傍が作成されます。 この 30 メートルという値が、最も極端なパーセンタイルが計算される縮尺の 1 つになります。

近傍距離と移動ウィンドウのピクセル数との関係
近傍距離 (オレンジ色のライン) と移動ウィンドウのピクセル数との関係が表示されています。 セル サイズが 10 メートルの場合、近傍距離が 10 メートルなら 3 x 3 セルのウィンドウが使用され (デフォルト)、近傍距離が 20 メートルなら 5 x 5 セルのウィンドウ、近傍距離が 30 メートルなら 7 x 7 セルのウィンドウが使用されます。

許容される最小の近傍距離は、入力ラスターのセル サイズと同じです。 これは 1 セルの値で、3 x 3 セルの近傍を作成します。 上の例では、最小近傍距離は 5 メートルです。

近傍距離は、入力サーフェス ラスターより大きくできません。

指定された近傍距離がセル サイズの倍数にならない場合は、ツールは距離をセル サイズの次の倍数に切り上げます。 たとえば、上図で近傍距離 25 メートルが指定された場合、セル サイズの次の倍数である 30 メートルに切り上げられます。

最初に [最小近傍距離] パラメーターの値で計算された後、以降の各近傍距離が計算されます。

以降で使用される近傍距離の計算式は次のようになります。

ni = no + [Δn × (i - no)]p
  • ここでは、

    ni = ステップ i の近傍距離

    no = 最小近傍距離

    Δn = 基本距離の増分

    i = 近傍距離が計算されるステップ (ここで、1 つ目のステップの値は 1 + no)

    p = 非線形ファクター

計算された新しい近傍距離それぞれについて、[最大近傍距離] パラメーターの値以下であるかどうかがチェックされます。 新しい距離の値が最大値以下である場合、近傍距離の計算が続行されます。 新しい値が最大値より大きい場合、すべての近傍距離の計算が完了しているため、パーセンタイルの計算が開始されます。

解析のこの部分の詳細については、以下の「パーセンタイルの計算方法」セクションをご参照ください。

近傍距離に対する非線形ファクターの影響

[非線形ファクター] パラメーターは、近傍距離の増分のラスターを制御します。 デフォルト値は 1 で、近傍距離が線形に増加します。 つまり、近傍距離の増分は [基本距離の増分] パラメーターの値と等しくなります。

[非線形ファクター] パラメーターの値を 1 より大きくすると、1 つ目以降は近傍距離の増分が変化します。 1 つ目の増分は [基本距離の増分] の値と等しくなり、以降のすべての増分はサイズが徐々に大きくなります。

[非線形ファクター] パラメーターの値を 1 より大きい値に設定すると、1 つ目以降の近傍距離の増分は徐々に大きくなります。 さらに、最小近傍と最大近傍の値は同じである場合、非線形ファクターが大きい方が全体として近傍距離の数が少なくなります。

以下の図は、[非線形ファクター] パラメーターの 3 つの異なる設定の影響を示しています。 この例では、1.0、1.5、2.0 に設定されています。 どの設定でも、他のパラメーターの値は同じです。 [最小近傍距離] パラメーターの値は 1、[最大近傍距離] の値は 10、[基本距離の増分] の値は 1 です。

非線形ファクターの 3 つの設定のいずれにおいても、近傍距離の 1 つ目の増分は同じ値 (2 セル) です。 これ以降は、近傍距離の値が変化していきます。 非線形ファクターが 1.5 ではこの増分が徐々に大きくなり、ファクターが 2.0 ではこれがさらに大きくなります。

[非線形ファクター] パラメーターの値が 1.0 の場合、増分の数は合計 9 つになり、各増分は前の増分より線形的に大きくなります。 ファクターの値が 1.5 の場合は増分の数は 4 つだけ、値が 2.0 の場合は増分の数が 3 つになります。

非線形ファクターについて説明している図
非線形ファクターの値を 1.0 より大きくすると、増分のサイズが徐々に大きくなるため、近傍距離が早くに増加します。 これにより、非線形ファクターに大きな値を使用した場合、最小近傍距離と最大近傍距離が同じでも縮尺の数は少なくなります。

[非線形ファクター] パラメーターを使用して、縮尺のサンプリング密度をカスタマイズすることができます。 標高サーフェスの場合、標高パーセンタイルは小さい縮尺の方が大きい縮尺より近傍サイズの影響を受けやすくなります。 [非線形ファクター] パラメーターに 1.0 より大きい値を使用することで、縮尺サンプリング密度を小さい縮尺では高くし、大きい縮尺では低くすることができます。 ただし、必要な数の増分にするために [最大近傍距離] パラメーターの値を大きくする必要が生じることがあります。 ほとんどの場合、非線形ファクターには 1.0 ~ 2.0 の値を使用します。

パーセンタイルの計算方法

パーセンタイルは、データセット内の値のうち、指定した値を下回る値のパーセンテージを示す統計メジャーです。 たとえば、80 パーセンタイルは、データセット内の値の 80% が含まれる値であり、残り 20% の値はこれより大きくなります。

[マルチスケール サーフェス パーセンタイル (Multiscale Surface Percentile)] ツールでは、計算された各近傍距離および入力サーフェス ラスター内の各セルについて、パーセンタイルが計算されます 最も極端なパーセンタイル値が特定され、[出力パーセンタイル ラスター] パラメーター値に記録されます。 これらのパーセンタイルが見つかった縮尺が [出力縮尺ラスター] パラメーター値にセルの値として記録されます。

各セルにおけるパーセンタイルの計算式は次のとおりです。

パーセンタイル = counti ∈C(zi < z0) × (100/nC)
  • ここでは、

    C = 処理で特定された近傍

    counti ∈C = 近傍 C 内のセルの数。ここでは (zi<z0) となります。

    zi = 近傍 C 内のセル i の値

    z0 = 近傍 C の中央のセルの値

    nC = 近傍 C に含まれているセルの数

3 x 3 セルの近傍でのこの計算の例を以下に示します。

サンプルの近傍にパーセンタイル式を適用
縮尺は 3 x 3 セルで、合計 9 つのセルがあります。 左側では、処理するセルの値と周囲の 8 つのセルの値 (灰色) が示されています。 右側では、値が中央のセルより小さいセル (緑色) と、値が中央のセル以上のセル (黄褐色) が示されています。

上記の式をこの例に当てはめると、次の結果が得られます。

パーセンタイル = (中央のセルの値より値が小さいセルの数) * 100 / (近傍内のセルの数) = 5 * 100 / 9 = 55.5556

このアプローチでは、Huang et al. (1979) の、必要に応じてパーセンタイル値をビン化するランニングヒストグラム フィルタリング アルゴリズムが利用されています。 パーセンタイル値が見つかると、その値と、以前に見つかった最も極端なパーセンタイルが比較されます。 新しい値の方が極端である (パーセンタイルがより 50 から離れている) 場合、[出力パーセンタイル ラスター] パラメーター値にその場所の値が記録されます。 [出力縮尺ラスター] パラメーター値に縮尺の値が記録されます。

GPU の使用

このツールは、特定の GPU ハードウェアをシステムにインストールしている場合に、パフォーマンスの向上が可能です。 この機能をサポートする方法、構成する方法、および有効化する方法の詳細については、「Spatial Analyst での GPU 処理」をご参照ください。

参考文献

Huang, Thomas S., G. Yang, and G. Tang. 1979. "A fast two-dimensional median filtering algorithm." IEEE Transactions on Acoustics, Speech, and Signal Processing Volume 27, Issue 1. pp.13–18. https://doi.org/10.1109/TASSP.1979.1163188

Newman, Daniel R., John B. Lindsay, and Jaclyn Mary Helen Cockburn. 2018. "Evaluating metrics of local topographic position for multiscale geomorphometric analysis." Geomorphology 312, 40–50. https://doi.org/10.1016/j.geomorph.2018.04.003

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